北京紀行8

故宮のなかを見学する。広い。贅沢。観光客がいっぱい。それでも中央通路の龍を彫刻した一枚岩のレリーフや九龍壁の一箇所が瑠璃片でなく木片がはめ込まれていることの説明がないことにガイドへの不審を募らせることに余念はない。
故宮には農村顔のイケてない団体ツアー客が多い。そして、田舎臭い夫婦が写真撮影に勤しんでいる。私たちが見学したい展示物の前でダサい奥さんがポージングしまくる。全然写真撮影が終わらない。写真撮影にかける情熱をもっとおしゃれになる努力に費やせないものだろうか。
故宮の一画にはラストエンペラー溥儀の親戚の人が住んでいる。書道家として生計を立てているようだ。「ちょうど先生が文字を書いているようなので見学しましょう」ということになり見る。私は何か売りつけられるのではないかと疑心暗鬼である。10万円の書が特別価格で1万円だそうだ。胡散臭い。孫正義から一千万円の寄付を受けたという記事をパウチしてある。胡散臭い。墨汁の匂いはいい匂いだかとにかく先生は胡散臭い。先生は「福」という文字を書いて、そこにいた日本人の中高年のご婦人がその書をご購入していた。故宮の片隅で需要と供給のバランスがとれたようだ。
危機一髪のところで要らない書を買わされるところだったという思いでガイドの後をついて進む。ガイドさんが「ここは映画『ラストエンペラー』で溥儀が自転車をこいでいた印象深いシーンをとった場所です。写真撮影をどうぞ。」と気が利いたことを言う。しかし、さっきの一件で心が頑なになってしまっているのでその申し出を断ってしまった。
それでも珍妃井という西太后が家来にめいじて珍妃を突き落として殺した井戸の説明はしっかりしていたのでガイドさんへの態度を軟化させた。